「聖地」阿蘇にマイガレージ、身軽に遠征バイク旅
バイクを使った観光振興に、九州・沖縄でも注目が集まっている。大量輸送はできないが、機動力があり小回りがきくことから周遊観光しやすいとみられる。訪れるライダーが増えれば経済効果も期待できる。「バイク(ライダー)の聖地」と呼ばれる阿蘇と熊本市の間に位置する熊本県大津町は、さらなるライダー誘致に力を入れている。
「町として『バイクの街づくり』を今後展開していきたい」。大津町の佐方美紀副町長は力を込める。町内には二輪車を生産するホンダの熊本製作所もあり、バイクとのつながりは深い。地元の観光協会や企業とも連携しながら、バイクを通じた観光誘客に向けスロットルを開ける。
町は2022年11月、日本二輪車文化協会の協力を得て、道の駅大津に「オートバイ神社」を設置した。「ライダーの交通安全」を祈願するものだ。阿蘇などでツーリングを楽しむ愛好家たちに立ち寄ってもらい、道の駅の知名度アップや消費増加にもつなげたい考えだ。
ライダーが「手ぶら」で熊本に来て、自分のバイクでツーリングができるようにもしている。IT企業のカダブラ(東京・中央)と連携し、町内のホテルに設置したガレージでバイクを預かり、所有者は飛行機などで来られるようにする実証実験を始めた。
バイクでは基本的に、移動には自走するか、長距離ではフェリーなどを使う。ただ、首都圏など遠方からは時間がかかるため、熊本を訪れるのに二の足を踏むこともあった。バイクを預けることで移動時間を短縮し、気軽に熊本県内などをツーリングできるようにする。
23年度からは道の駅などで買い物をする際、スマートフォンで決済や配送手続きもできるようにする計画だ。買った土産品などをバイクに積んで持って帰らなくてもいいようにすることで、ライダーの消費意欲を喚起する。
大津町以外でも、熊本県内ではバイクを生かした観光振興が広がる。元県職員の田辺洋和氏は県内を中心に観光ガイド付きのツーリングなど手掛けるモトライドツアーズ(熊本市)を立ち上げた。田辺氏は「バイクのツアーは海外では多いが、日本はあまりない。事業チャンスは大きい」と設立の狙いを話す。
22年11月には、県が熊本地震の復興策の一つとして地元出身の漫画家、尾田栄一郎氏と連携して設置した「ONE PIECE」の「麦わらの一味」の10体の銅像をバイクで見て回るモニターツアーを開催した。
熊本では阿蘇以外にも、天草などツーリングを楽しめる場所が多くある。地元では魅力の発信に力を入れていく考えだ。(近藤康介)
ライダー誘致、「愛車披露イベントも効果的」
ナビタイムジャパン(東京・港)のバイク専用経路検索サービスを使った22年1~10月の検索実績を19年同期と比較すると、九州・沖縄では宮崎県が27.1%増で伸び率が最も大きくなった。沖縄県(15.8%増)熊本県(14.8%増)が続いた。スポットでは熊本県阿蘇市の大観峰や鹿児島県南大隅町の佐多岬の検索頻度が高かった。
観光学が専門の九州産業大学の大方優子教授によると、九州はバイク観 光に適した地域だという。「温泉やキャンプ場、道の駅などバイクツーリングと組み合わせやすい資源が豊 富だ。気候も一年を通して雪がほとんど降らず、車で走ることを前提とした道路も整っている」と指摘する。
新型コロナウイルス禍でのバイクツーリングは「車などと違い、複数人で行動しても密を避けられる」メリットがあるという。加えて「公共交通機関を使ったり、旅行会社のツアーを使ったりして旅行する場合、 感染状況に よっては直前になって日程や行程の変更を余儀なくされることもあるが、 バイク であれば柔軟に対応できる」 と話す。
九州・沖縄からは距離が離れている大都市圏からライダーを呼び込むための工夫も重要だとする。大方氏はレンタルバイクの充実に加え「愛好者のコミュニティーが強いため、愛車を披露し合うようなイベント開催なども効果的だ」とする。(関口桜至朗)
【日本経済新聞】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC267XF0W3A120C2000000/